【第1回】 決算書のこんな点が変わった!
第1章 「収支」と「損益」を理解しよう!
「資金収支と事業活動収支の違いは何?」と聞かれて、皆さんはどう答えますか?
「うーん。資金収支はお金の動きですよね。それで、事業活動収支は損益なんだけど・・・正直なところ今一つよくわからないんだよね」という声がよく聞かれます。
「収支」と「損益」の違いは、平成12年の社会福祉法人会計基準(以下、「旧基準」といいます。)で導入されましたが、平成23年の新社会福祉法人会計基準(以下、「新基準」といいます。)では、一層明確にされましたので、これを機会に再確認したいと思います。
(1)「収支」は、支払資金の動き
「新基準」では、支払資金というものが定義されていて(「旧基準」も同じです。)、この支払資金が増えた時は「収入」、減った時は「支出」とし、まとめて支払資金の動きを「収支」と言います。
ここで支払資金は、おおざっぱにいえば、すぐに使える「お金」です。一般的には、現金であったり普通預金ですね。ただ支払資金は、もう少しだけ範囲を広くとらえました。
近いうちに現金や普通預金の増えたり減ったりするものも含めます。例えば、未収金は近いうちに回収されて現金等が増えますし、短期借入金は、近いうちに支払われますから、現金等が減ります。
こういった近いうちに現金や預金が増減するものは、現金や預金と同じように扱い、そしてそれらを支払資金とすることにしました。
以下のQ&Aもご覧ください。
支払資金については、 Q4.1.1.1 新基準では、支払資金の範囲に変化があると聞きましたが、その変更内容を教えてください。をご覧ください。
収入については、 Q4.2.1.1 収入と収益の違いを教えてください。をご覧ください。
支出については、 Q4.2.3.1.1 支出と費用の違いを教えてください。をご覧ください。
このように、「収支」は、現金やすぐ使える預金(近いうちにそうなるものも含めて)が、増えたり(収入)減ったり(支出)することを言うわけです。
ここまでは、ご理解いただけましたでしょうか。
(2)「損益」は、財産の動き
いよいよ、次は「損益」です。
「収支」は、すぐ使えるお金の動きでした。
でも、法人には、すぐ使えるお金だけでなく土地、建物や備品とかさらに定期預金みたいにお金だけれどもすぐには使えないものが山ほどあります。
これら全部まとめて「財産」と言いますが、「財産」の動きも支払資金の動きとともに重要です。
そこで、この動きを表す「損益」の登場です。
つまり、「損益」は、すぐ使えるお金だけではなくもっと広い範囲の「財産」が、増えたり(収益)減ったり(費用)することを言うわけです。
実は、今のはちょっと正確性に欠ける言い方なんですが、感覚的にはそんな感じと捉えてください。
おいおいわかってきますから、大丈夫です。
(3)「収支」は、「損益」に含まれる?
「収支」は、すぐ使えるお金の動き、「損益」は、もっと広い「財産」の動きと言うと、「損益」の方が広くて「収支」が中に含まれると思えますが、違うんです。
例えば、車輌を現金で買った場合を考えてみてください。
「収支」の観点からみると、現金=すぐ使えるお金が減りますから、「支出」があったことになります。
これに対し、「損益」の観点からみると、すぐ使えるお金は減りますが、同じ価値の車輌という財産に変わっただけなんです。全体的には「財産」に変化はないので「費用」は発生しないんです。
「収支」はあるけど、「損益」はない例です。
もう一つ減価償却の例をあげましょう。
御承知のように、減価償却とは、例えば何年にもわたって使える車輌を買った場合、その価値を使う期間に分けて負担させる会計の手法です。
「収支」の観点からみると、買った年度より後の年度は、現金=すぐ使えるお金に何ら変化はありませんから、「支出」はありません。
これに対し、「損益」の観点からみると、すぐ使えるお金は減らないけれど、たとえば車輌という財産の価値は毎年毎年下がりますから、会計的には「財産」が減るので、「費用」が発生することになります。
「損益」はあるけど、「収支」はない例です。
このように、「収支」と「損益」は、増えたり減ったりを表すことは同じなんだけれど、「何が」という点が違うんだと理解してください。
なお図で表すと、下のようになります。
ただし、実際は、上の図の交わった部分(収支かつ損益)の取引が大部分を占めることになります。
(4)新基準の科目の使い分け
このように、新基準では、「収支」と「損益」を明確に分けており、勘定科目名にも影響が出ています。
典型的な例を示します。
●補助金の収入の勘定科目名の変化
<資金収支計算書> | <事業活動計算書> | |
【旧基準】 | 補助金収入 | 補助金収入 |
【新基準】 | 補助金事業収入 | 補助金事業 収益 |
旧基準では、両方とも「収入」が付いていましたが、新基準では、「収入」と「収益」に区別しました。
なお、補助金の後に”事業”と付いていますが、特に気にしないでください。
もうひとつ、支出についても見てみましょう。
●旅費交通費の支出の勘定科目名の変化
<資金収支計算書> | <事業活動計算書> | |
【旧基準】 | 事務費支出・旅費交通費 | 事務費支出・旅費交通費 |
【新基準】 | 事務費 支出 ・旅費交通費 支出 | 事務費・旅費交通費 |
旧基準では、両方とも「○○費支出・○○費」でしたが、新基準では、「○○費支出」と「○○費」に区別しました。
上記はほんの一例ですが、解釈を端的に表しています。
<資金収支計算書>を見てください。徹底して、「収入」「支出」と言っています。
それに対し、<事業活動計算書>では、「収入」「支出」を一切使わず、「収益」「費用」に変えています。
(計算書全体をみると、ところどころ徹底しきれないところもありますが、まあそれはそれとして・・・)
このように、勘定科目レベルで大きく変わったことを覚えておいてください。
2つの性格の異なる計算書における科目の表現を明確に分けたというのは、会計専門家からすれば納得するのですが、一般的には何でそこまでこだわるのと言うのが感想でしょう。
まあとにかくそうなったんだと言うくらいでいいでしょう。(実質的には、新基準になっても従来と変わりはないと思ってくださって結構です。)
それに、実際の仕訳では、ほとんどの場合、資金収支の仕訳は、会計システムが自動的にやってくれますから、特に意識することなく入力することができます。
ご安心下さい。
勘定科目の変更点について、さらに詳しく「第2章 勘定科目は、こう変わった!」で説明します。
(5)計算書の変更
新基準では、事業活動収支計算書から事業活動計算書に名称が変わりました。
これも、「収支」「損益」を意識して変更したと理解してください。
なお、2つの収支計算書の様式について、内容も変わりました。
様式の変更点について、さらに詳しく「第3章 決算書は、こう変わった!」(1)で説明します。